PROCEDURE

腹腔鏡下 避妊手術(卵巣摘出)

腹腔鏡がもっとも活かせる手術のひとつが、犬や猫の避妊手術です。当院でも、腹腔鏡手術の中でいちばん多く行っている術式です。

一般的な開腹による避妊手術では、おなかの中心を80〜200mmほど切開します。腹腔鏡を用いると、5〜10mmの傷を2か所つくるだけで手術が行えます。

腹腔鏡下避妊手術とは

おなかに小さな穴をあけ、テレスコープと呼ばれる細長いカメラをそこから挿入します。モニターに映るおなかの中を見ながら、別の穴から手術器具を入れて卵巣を摘出します。

当院では、ドイツ・ストルツ社の硬性鏡システム(フルデジタル・ハイビジョン)を導入しています。拡大された鮮明な映像で確認しながら手術を進められます。

穴の数は体格によって変わります。猫と小型犬では2か所、中型犬から超大型犬では3か所を基本としています。小型と中型のあいだにはっきりした線引きがあるわけではないので、体格や体型、おなかの深さを見て、一頭ごとに判断します。

中型犬から超大型犬の場合(3ポート)

体が大きくなるほど、おなかの中の空間が広く、卵巣までの距離も長くなります。カメラと手術器具の角度を無理なく確保するため、中型犬から超大型犬では穴を1か所増やして3か所とすることを基本にしています。穴が1つ増えても、1か所あたりは5〜10mmのままです。

体が大きい子ほど、腹腔鏡の利点は大きくなります。開腹手術では切開の長さが体格に応じて長くなり、大型犬では200mm近くに達することもあります。同じ手術を5〜10mmの傷3か所で行えれば、その差はそのまま術後の痛みと回復の早さに関わります。

体重のある大きな子は、傷に力がかかりやすく、術後にじっとしていることも簡単ではありません。傷が小さいほど、この負担を抑えやすくなります。

開腹手術との違い

開腹手術 腹腔鏡手術
傷の大きさ 80〜200mm 5〜10mmを2か所
術後の痛み 大きい 少ない
術後のカラー 必要 必要ないことが多い
手術時間 短い やや長い

大きく切開しないため、術後の痛みが抑えられ、回復も早くなります。おなかの中の癒着を最小限にできることも利点です。

一方で、腹腔鏡は専用の機器が必要で、手術時間は開腹よりやや長くなります。

実際の術創

当院で腹腔鏡下の避妊手術を受けた動物たちの、手術直後のおなかです。

腹腔鏡下避妊手術の術創。5〜10mmの傷が2か所

5〜10mmの傷が2か所(2ポート)。猫と小型犬の避妊手術で基本となる方法です。

腹腔鏡下避妊手術の術創(3ポート)

中型犬から超大型犬では、3か所(3ポート)になります。

赤い線は、同じ手術を開腹で行った場合に必要となる切開の長さ(80〜200mm)を、同じ体の上に重ねたものです。

開腹手術の切開範囲を赤い線で重ねた比較。腹腔鏡の傷がいかに小さいかがわかる

赤い線が開腹手術の切開範囲。腹腔鏡ではこの範囲を切らずにすみます。

体内に糸を残さない手術

避妊手術では通常、糸で血管を結んで卵巣や子宮を摘出します。ところがこの糸が原因で、手術から数か月〜数年たったあとに「異物反応性肉芽腫」が起こることが報告されています。

おなかの中にしこりができたり、手術部位の付近が腫れて化膿し、皮膚に穴があいたりする病気です。体内に残った糸に対して、体が異物反応を起こすことで生じます。

とくにミニチュア・ダックスフンドでの報告が多く、チワワ、トイ・プードル、マルチーズ、シーズーなどでも報告があります。

いったん起きると、しこりと残った糸を摘出する再手術が必要になりますが、腎臓や膀胱、腸などと癒着していることが多く、完全に取りきることが難しい場合も少なくありません。その場合は、ステロイド剤などを用いた治療を続けることになります。

そこで当院では、エースクラップ社のシーリングシステム「ケイマン」を使用しています。高周波の電気で血管を確実にシールして切離できるため、体内に糸をほとんど残さずに手術を行えます。糸が残らなければ、この病気のリスクを避けやすくなります。

エースクラップ社のシーリングシステム「ケイマン」の鉗子

ケイマンの鉗子。この先端で血管をはさみ、シールして切離します。

シーリングシステムのジェネレーター(AESCULAP lektrafuse)

出力を制御するジェネレーター。血管の太さに合わせて自動で通電を調整します。

こんな子に向いています

  • 活発でじっとしているのが苦手な若い犬・猫

  • 興奮しやすく、術後に安静を保ちにくい子

  • 皮膚がデリケートで、傷を小さくしたい子

  • ミニチュア・ダックスフンドなど、糸による肉芽腫の報告が多い犬種

当院の考え方

すべての子に腹腔鏡が最適とは限りません。年齢や体格、これまでの健康状態によっては、開腹手術のほうが適していることもあります。当院では事前の血液検査などで状態を確認し、一頭ごとに合った方法をご提案します。

費用は腹腔鏡手術の費用について、ご相談から抜糸までの流れは手術までの流れのページでご案内しています。開腹手術を含めた料金の一覧は避妊・去勢手術のページをご覧ください。

よくあるご質問

傷あとはどのくらい残りますか?

5〜10mmの傷が2か所(中型犬から超大型犬では3か所)です。開腹手術では80〜200mmの切開になりますので、傷の大きさは大きく変わります。毛が生えそろうと目立ちにくくなることがほとんどです。

術後にカラー(エリザベスカラー)は必要ですか?

腹腔鏡では傷が小さいため、カラーを着けずにすむことが多くなります。傷を気にして舐めてしまう場合は着けていただくこともありますので、術後の様子を見て判断します。

「体内に糸を残さない」とは、どういうことですか?

通常は糸で血管を結んで卵巣を摘出しますが、当院ではシーリングシステムで血管をシールして切離するため、糸をほとんど使いません。糸が体内に残らなければ、糸が原因で起こる異物反応性肉芽腫のリスクを避けやすくなります。とくにミニチュア・ダックスフンドで報告が多い病気です。

何か月ごろから受けられますか?

発育の状態や体格を見ながら時期を判断します。適した時期には個体差がありますので、月齢や生活の様子をふまえて診察のうえでご案内します。避妊の時期は将来の病気の予防とも関わりますので、迷われている場合はお早めにご相談ください。

手術当日に帰れますか、入院は必要ですか?

手術の内容や体調によって変わります。日帰りに近い形で対応できることもあれば、術後の様子を見るために短期間お預かりすることもあります。術後の痛みの管理を重視して判断しますので、詳しくは診察の際にご説明します。

開腹手術と腹腔鏡、どちらがよいのでしょうか?

腹腔鏡は体への負担が少ない方法ですが、すべての子に当てはまるわけではありません。年齢や体格、健康状態によっては開腹手術が適していることもあります。それぞれの利点と負担を整理してご説明しますので、一緒に考えていきましょう。

費用はどのくらいかかりますか?

体重や手術方法によって変わります。腹腔鏡下の避妊手術の料金は腹腔鏡手術の費用についてのページでご案内しています。開腹手術を含めた一覧は避妊・去勢手術のページをご覧ください。ご不明な点は診察の際にお尋ねください。

SUPERVISED BY / 監修

このページは、南大沢どうぶつ病院 院長・獣医師 保坂 創史(日本獣医がん学会 獣医腫瘍科認定医Ⅰ種)が監修しています。2009年より腹腔鏡手術に取り組んでいます。

最終更新日:2026-06-25

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南大沢どうぶつ病院/多摩八王子動物がんクリニック