現在、FIPの治療で世界的に重視されているのが、ウイルスそのものの増殖を抑える「抗ウイルス薬」です。当院では主に、レムデシビルとモルヌピラビルの2種類を用いて治療を行っています。この2剤を院内に備え、猫の状態に合わせて使い分けられる病院は、国内でもまだ限られています。
レムデシビル(注射・点滴)
症状が重い場合や、食欲が落ちている場合に使います
体内ですみやかに抗ウイルス作用を発揮します
特に急性のウェット型(腹水・胸水)で早い改善が期待できます
通常は治療開始から3〜7日ほど使用し、状態が落ち着いたら内服薬へ切り替えます
全身の状態を見ながら、必要に応じて入院管理のもとで慎重に使います
モルヌピラビル(内服)
ご自宅で続けていただくお薬です
1日2回の内服が必要です
ウェット型だけでなく、ドライ型や神経・目の症状にも用いられます
比較的副作用が少なく、長期の投与がしやすい薬です
治療期間
治療期間は、通常84日(12週間)が目安です。途中で症状が良くなっても、そこでやめてしまうと再発しやすくなるため、最後までしっかり続けることがとても大切です。症状の重さや反応によって、期間や量が前後することがあります。
治療成功率
現在の抗ウイルス治療では、およそ8割から9割の猫で長期的な改善が期待できると報告されています。かつて「ほぼ助からない」とされていた病気が、正しい診断と十分な治療によって、多くの命を救える病気へと変わってきています。
投薬量の考え方
当院では、国内外の論文や報告を参考にしながら、一頭ごとの状態に合わせて投薬量を設計しています。参考にしている報告の例として、2025年 オーストラリア Dr. Coggins の報告、2025年 北海道大学の11症例、2024年 UC Davis の10症例、2023年 Dr. Sase の18症例などがあります。これらをふまえ、症状・体重・検査値の変化を見ながら、細かく量を調整していきます。
治療がうまく進んでいるサイン
治療が順調に進むと、次のような変化が見られます。
1週間以内:熱が下がる、食欲が戻る
2〜4週間:血液検査の数値が改善してくる
1〜2か月:内臓の炎症が落ち着いてくる
12週後:体重が増える、血液データが安定する
副作用について
抗ウイルス薬には、次のような副作用が出ることがあります。
注射した部位に痛みが出ることがあります
軽い嘔吐や下痢が出ることがあります
肝臓の数値の上昇や、白血球(好中球)の減少が起こることがあります
当院では治療中も定期的に血液検査を行い、安全性を確認しながら進めていきます。
再発について
治療が終わったあとに再発する可能性は、報告ではおよそ5〜15パーセントとされています。再発を防ぐためにも、決められた期間・量の治療を最後までやりきることが重要です。治療終了後も、少なくとも3か月ほどは定期的なチェックを続けます。
お薬について(大切なお知らせ)
レムデシビルとモルヌピラビルは、現時点で日本国内では一般に市販されていません。そのため治療は自由診療(保険適用外)となります。効果が確立してきた治療である一方、必ず治るとお約束できるものではなく、費用や長期の投薬というご家族の負担もあります。当院では治療を無理におすすめすることはありません。猫ちゃんの状態とご家族の状況に合わせて、納得のいく方針を一緒に考えていきます。
SUPERVISED BY / 監修
このページは、南大沢どうぶつ病院 院長・獣医師 保坂 創史(日本獣医がん学会 獣医腫瘍科認定医Ⅰ種)が監修しています。レムデシビル・モルヌピラビルを用いた猫のFIP治療に取り組んでいます。
最終更新日:2026-06-25