2026-09-13

腫瘤(しゅりゅう)と腫瘍の違いとは?「脾腫瘤」「肝腫瘤」と言われたときの意味と、次に行う検査

「検査結果に『脾腫瘤(ひしゅりゅう)』と書いてあって、これはがんということですか」「紹介状に腫瘤とあるのですが、腫瘍とは違うのでしょうか」。診察室でよくいただく質問です。

先に答えをお伝えすると、腫瘤(しゅりゅう)は「しこり・かたまり」を指す言葉で、中身が何かは問いません。腫瘍はその中の一部で、細胞が勝手に増え続けてできたものを指します。つまり「腫瘤=がん」ではありません。ただし「腫瘤=心配ない」でもなく、中身を調べるまでは良性とも悪性とも言えない、というのが正確なところです。

このページでは、言葉の意味の違い、良性と悪性の違い、「脾腫瘤」「肝腫瘤」と言われたときに何を意味するのか、そして次にどんな検査で正体を調べるのかを順に説明します。

「腫瘤」とは:触れる・画像に写る「しこり」の総称

腫瘤(しゅりゅう)とは、体の表面や体の中にできた「しこり」「かたまり」を指す、医療の場での言葉です。英語では mass(マス)と呼びます。手で触ってわかるものも、超音波検査やレントゲン検査で見つかるものも、どちらも腫瘤です。

大切なのは、腫瘤という言葉は「そこに何かかたまりがある」という事実だけを表していて、中身が何であるかを言っていない点です。腫瘤に含まれるものには、たとえば次のようなものがあります。

  • 膿瘍(のうよう):細菌感染で膿がたまったもの
  • 嚢胞(のうほう):袋の中に液体や皮脂などがたまったもの
  • 血腫(けっしゅ):出血が固まってかたまりになったもの
  • 肉芽腫(にくげしゅ)や炎症による腫れ:虫刺されや異物の反応など
  • 過形成(かけいせい):正常な細胞が増えて盛り上がったもの
  • 良性腫瘍
  • 悪性腫瘍(いわゆる「がん」)

飼い主さまが「しこりがあります」とおっしゃる状態と、カルテや検査報告書に「腫瘤」と書かれる状態は、同じものを指しています。言葉が違うだけで、別のものを見ているわけではありません。

「腫瘍」とは:細胞が自律的に増え続けてできたもの

腫瘍とは、体の細胞が本来の増殖の制御から外れて、自律的に増え続けることでできたものを指します。感染や炎症で腫れたものや、正常な細胞が一時的に増えた過形成は、腫瘍には含めません。

つまり、腫瘍は腫瘤の一部です。腫瘤がすべて腫瘍というわけではなく、腫瘤の中に腫瘍が含まれる、という関係になります。

言葉 意味 含まれるもの
しこり・できもの 日常の言葉。医療の場では「腫瘤」と書かれます 腫瘤と同じ
腫瘤 触れる、または画像で見える「かたまり」の総称 膿瘍・嚢胞・血腫・炎症による腫れ・過形成・良性腫瘍・悪性腫瘍
腫瘍 細胞が自律的に増え続けてできたもの 良性腫瘍・悪性腫瘍
悪性腫瘍(がん) 周囲に入り込んだり、転移したりする性質をもつ腫瘍 肥満細胞腫・リンパ腫・血管肉腫・扁平上皮癌など

なぜ検査結果には「腫瘤」と書かれるのか

触診や超音波検査の段階では、そのかたまりが腫瘍なのか、炎症や嚢胞なのかまでは決められません。そのため、性質がはっきりするまでは中立的な「腫瘤」という言葉を使います。細胞診や病理検査で腫瘍だと確認されて、初めて「腫瘍」という呼び方に変わります。検査報告書に「腫瘤」とあるのは、「まだ中身を決めつけていない」という意味だとお考えください。

良性腫瘍と悪性腫瘍の違い

腫瘍には良性と悪性があります。

良性腫瘍は、その場でゆっくり大きくなり、周囲の組織に入り込んだり、離れた臓器へ転移したりすることは基本的にありません。悪性腫瘍は、周囲の組織へ入り込みながら広がり、リンパ節や肺などへ転移することがあります。増える速さも、一般に悪性のほうが速い傾向があります。

ただし、良性だから放っておいてよいというわけではありません。できた場所や大きさによっては、まぶたや関節の動きをさまたげたり、動物自身が舐めて傷つけてしまったり、お腹の中で破れて出血したりして、切除が必要になることがあります。

そして、良性か悪性かは見た目や手ざわり、画像の印象だけでは決められません。判断するには、このあとご説明する細胞診や病理検査が必要になります。

「脾腫瘤」「肝腫瘤」と言われたときの意味

健康診断や体調不良のときの超音波検査で、「脾臓(ひぞう)に腫瘤があります」「肝臓に腫瘤があります」と言われることがあります。これも意味は同じで、「脾臓にかたまりがある」「肝臓にかたまりがある」という事実を表す言葉です。

脾腫瘤(ひしゅりゅう)

脾臓のかたまりには、血腫や結節性過形成、血管腫のような良性のものと、血管肉腫(けっかんにくしゅ)やリンパ腫のような悪性のものがあります。犬では血管肉腫が悪性の代表で、かたまりが破れてお腹の中で出血し、突然ぐったりして見つかることがあります。超音波の画像だけで良性と悪性を確実に見分けることは難しく、多くの場合は摘出した脾臓を病理検査に出して確定します。脾臓の腫瘤については、脾臓の腫瘤とは?突然倒れる前に知ってほしいこと犬の脾臓腫瘍(血管肉腫)でくわしく解説しています。

肝腫瘤(かんしゅりゅう)

肝臓のかたまりも、結節性過形成や肝細胞腺腫のような良性のものから、肝細胞癌や他の臓器からの転移まで幅があります。高齢の犬では、良性の過形成が超音波で見つかることも珍しくありません。こちらも画像だけでは決められず、経過観察で大きさの変化を追うか、細胞診や病理検査に進むかを、大きさ・数・血液検査の結果・全身の状態から相談して決めます。

次に行う検査:腫瘤の「正体」を調べる

腫瘤が見つかったあとは、「それが何なのか」を確かめる検査に進みます。腫瘤の場所によって、選べる検査が変わります。

細胞診(さいぼうしん)

細い注射針でかたまりの細胞を少量吸い取り、顕微鏡で観察する検査です。体の表面のしこりやリンパ節では、まずこの検査を行うことがほとんどです。多くの場合は麻酔を必要とせず、短時間で終わります。炎症なのか腫瘍なのか、腫瘍なら良性か悪性かの見当をつけることができます。ただし、細胞の採れ方によっては判断がつかないこともあり、その場合は次の病理検査に進みます。

病理組織検査(生検・組織診)

かたまりの一部、または全体を切り取って、専門の病理医が組織を調べる検査です。腫瘍の種類と悪性度(グレード)を確定するための検査で、治療方針を決めるうえで最も信頼できる情報になります。脾臓のように針を刺すと出血の心配がある臓器では、細胞診を省いて摘出と病理検査を選ぶことが多くなります。

画像検査・血液検査(広がりの評価)

悪性腫瘍が疑われる場合は、超音波検査や胸のレントゲン検査で、リンパ節や肺、他の臓器への広がり(転移)がないかを確認します。血液検査で全身の状態をあわせて評価し、手術や治療に耐えられるかも見ていきます。

「様子を見る」前に「調べる」という考え方

腫瘤という言葉に驚かれる方は多いのですが、言葉そのものは中立で、がんと決まったわけではありません。一方で、中身を調べずに「小さいから」「やわらかいから」と様子を見ているうちに、悪性のものが大きくなってしまうことがあります。

当院では、体の表面のしこりには細胞診を積極的に行い、お腹の中の腫瘤には超音波検査で大きさや形、腹水の有無を確認したうえで、摘出して病理検査に進むか、経過を追うかをご家族と相談して決めています。日本獣医がん学会の獣医腫瘍科認定医Ⅰ種が、診断から治療、治療をしない選択肢まで含めてご提案します。

体の表面のしこりについては犬猫の体表部のしこり、犬のしこりの種類と受診の目安は犬の「しこり」は癌?獣医師が解説する種類と危険なサインもあわせてご覧ください。

よくあるご質問

検査結果に「腫瘤」と書かれていました。がんということですか?

いいえ、「腫瘤」は「かたまりがある」という事実を表す言葉で、がんかどうかは含んでいません。膿瘍や嚢胞、血腫、良性腫瘍、悪性腫瘍のどれも腫瘤に含まれます。中身は細胞診や病理検査で調べて初めてわかりますので、結果が出るまでは良性とも悪性とも決めつけないでください。

「脾腫瘤」と言われました。すぐに手術が必要ですか?

脾臓のかたまりには良性のものも悪性のものもあり、画像だけで見分けることは難しいのが実情です。かたまりが破れて出血する心配がある場合や、悪性が疑われる場合は、早めの摘出をおすすめすることがあります。大きさや形、腹水の有無、全身の状態をもとに、手術の時期と内容をご家族と相談して決めます。

腫瘤が良性か悪性かは、どうやって調べますか?

体の表面のしこりやリンパ節なら、細い針で細胞を採る細胞診をまず行います。脾臓や肝臓のようにお腹の中にある腫瘤は、針を刺すと出血の心配があるため、超音波検査で評価したうえで摘出して病理検査に出すことが多くなります。最終的な確定は病理組織検査で行います。

「しこり」「できもの」「腫瘤」は同じものですか?

はい、同じものを指しています。「しこり」「できもの」は日常の言葉、「腫瘤」は医療の場での言葉です。獣医師に相談するときは「しこり」で伝わりますので、言葉の違いを気にする必要はありません。

良性の腫瘍なら、放っておいても大丈夫ですか?

良性でも、できた場所や大きさによっては切除をおすすめすることがあります。まぶたや関節の動きをさまたげる、動物が舐めて傷ができる、お腹の中で破れて出血するといった場合です。また、良性と思われていたものが検査で悪性とわかることもあります。大きさの変化を定期的に確認し、変化があれば早めにご相談ください。

SUPERVISED BY / 監修

この記事は、南大沢どうぶつ病院 院長・獣医師 保坂 創史(日本獣医がん学会 獣医腫瘍科認定医Ⅰ種)が監修しています。

公開日:2026-09-13

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