body surface lump

犬猫の体表部のしこり

Lump

―  腫瘍専門医が解説する「正しい考え方」と診断・治療 ―

南大沢どうぶつ病院/多摩八王子動物がんクリニック

体表部の「しこり」とは

犬や猫の体表部に触れる「しこり」は、皮膚、皮下組織、筋膜、筋肉、リンパ節など、さまざまな組織を発生母地として生じます。その正体は、炎症や嚢胞といった非腫瘍性病変から、良性腫瘍、悪性腫瘍、さらには他臓器からの転移性腫瘍まで多岐にわたります。重要なのは、「見た目」「大きさ」「触った感じ」だけで正確な判断はできないという点です。小さく目立たないしこりの中に、治療方針を大きく左右する腫瘍が隠れていることも少なくありません。

「腫瘤(しゅりゅう)」と「腫瘍」はどう違うのか

検査の説明や紹介状で「腫瘤」という言葉を見て、腫瘍と何が違うのだろうと思われる方は少なくありません。この二つは似ていますが、指している範囲が違います。

腫瘤(しゅりゅう)とは、触ってわかる、あるいは画像で確認できる「しこり」を指す、医療の場での言葉です。中身が何であるかは問いません。細菌感染でできた膿瘍、皮脂などがたまった嚢胞、出血が固まった血腫、虫刺されなどの炎症による腫れも、すべて腫瘤に含まれます。

一方で腫瘍とは、体の細胞が本来の増殖の制御から外れて、自律的に増え続けることでできたものを指します。腫瘍には良性と悪性があります。つまり腫瘍は腫瘤の一部であって、腫瘤がすべて腫瘍というわけではありません。

つまり、飼い主さまが「しこりがあります」とおっしゃる状態と、カルテや紹介状に「腫瘤」と記録される状態は、同じものを指しています。言葉が違うだけで、別のものを見ているわけではありません。

言葉意味含まれるもの
しこり日常語。医療の場では「腫瘤」と書かれる腫瘤と同じ
腫瘤触れる、または画像で見えるしこりの総称膿瘍・嚢胞・血腫・炎症による腫れ・良性腫瘍・悪性腫瘍
腫瘍細胞が自律的に増え続けてできたもの良性腫瘍・悪性腫瘍
悪性腫瘍(いわゆる「がん」)周囲に広がったり転移したりする性質をもつ腫瘍肥満細胞腫・軟部組織肉腫・扁平上皮癌など

※「腫瘤」は範囲の広い言葉で、「腫瘍」はその中の一部にあたります。

検査結果に「腫瘤」と書かれるのには理由があります。触診や超音波検査の段階では、そのしこりが腫瘍なのか、炎症や嚢胞なのかまでは決められません。そのため、性質がはっきりするまでは中立的な「腫瘤」という言葉を使います。細胞診や病理検査で腫瘍だと確認されて初めて、「腫瘍」という呼び方に変わります。

良性腫瘍と悪性腫瘍の違い

良性腫瘍は、その場でゆっくり大きくなり、周囲の組織に入り込んだり、離れた臓器へ転移したりすることは基本的にありません。悪性腫瘍は、周囲の組織へ入り込みながら広がり、リンパ節や肺などへ転移することがあります。

ただし、良性だから放っておいてよいというわけではありません。できた場所や大きさによっては、まぶたや関節の動きをさまたげたり、動物自身が舐めて傷つけてしまったりして、切除が必要になることがあります。

そして、良性か悪性かは見た目や手ざわりでは決められません。判断するには、このあとご説明する細胞診や、病理検査が必要になります。

しこりの主な分類

体表部のしこりは、大きく以下に分類されます。

  • 非腫瘍性病変(炎症、嚢胞、膿瘍、外傷後変化など)
  • 良性腫瘍(脂肪腫、乳頭腫など)
  • 悪性腫瘍(肥満細胞腫、軟部組織肉腫、扁平上皮癌、悪性黒色腫など)
  • 転移性腫瘍(他臓器のがんから体表へ転移したもの)

同じ「しこり」に見えても、治療の考え方は大きく異なります。

見た目だけでは判断できない理由

体表部腫瘍の中には、初期には柔らかく、可動性があり、一見すると良性に見えるものも存在します。特に肥満細胞腫は、外見や触診だけでは判断が困難な代表的腫瘍です。一方で、硬く大きなしこりが良性であるケースもあり、「触った感じ」は診断の決め手にはなりません。

正しい診断の第一歩:細胞診検査

当院では、体表部のしこりに対して細胞診検査を積極的に行っています。細い注射針で細胞を採取し、腫瘍性か非腫瘍性か、悪性が疑われるかどうかを評価します。多くの場合、鎮静や麻酔は不要で、短時間かつ低侵襲に実施できます。この検査結果は、その後の治療方針を考えるうえで極めて重要な情報となります。

外科手術が必要な場合

腫瘍と診断された場合でも、すぐに切除すべきかどうかは慎重に判断します。

腫瘍の種類、悪性度、大きさ、発生部位、進行度、年齢や全身状態を総合的に評価し、最適なタイミングと術式を検討します。

特に悪性腫瘍では、「最初の手術」が予後を大きく左右するため、切除範囲や追加治療を見据えた計画が重要です。

腫瘍専門医による治療の強み

南大沢どうぶつ病院/多摩八王子動物がんクリニックでは、日本獣医がん学会1種認定医が診療を担当しています。診断から治療、術後管理まで一貫して腫瘍学的視点で評価し、病理検査結果を踏まえた治療戦略を立案します。必要に応じて、化学療法や補助治療も含めた包括的な治療をご提案します。

飼い主さまへ

体表部のしこりに気づいたとき、「様子を見る」前に「評価する」ことが重要です。早期に正確な情報を得ることで、治療の選択肢を広く保つことができます。気になる変化があれば、お早めにご相談ください。

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