「なでていたら、乳首のまわりが赤くなっていました」「かさぶたのようなものがついています」「乳首の下に、小さなかたいものが触れる気がします」。診察室でよくうかがうご相談です。
こうした変化の原因はひとつではありません。皮膚の炎症のこともあれば、ホルモンの影響で乳腺そのものがふくらんでいることもありますし、乳腺のしこりのこともあります。見た目の赤みだけで、どれなのかを決めることはできません。
このページでは、乳首まわりの変化に気づいた段階で、何を確かめて、いつ受診するかをまとめます。
乳首のまわりに起きる変化
皮膚の側の変化
なめる、かく、床にこすれるといったことで、乳首のまわりの皮膚が赤くなることがあります。ノミなどによるアレルギーの皮膚炎でも、小さなかさぶたが点々とできることがあり、おなかや乳首のまわりに出やすい場所のひとつです。
この場合は、乳首のまわりのほかに、背中やしっぽの付け根にも同じような赤みやかさぶたが出ていないかを見ていただくと参考になります。
ホルモンの影響で乳腺がふくらむもの
避妊手術をしていない若い雌猫では、発情のあとや妊娠中に、乳腺そのものが短期間で大きくふくらむことがあります。線維腺腫様過形成と呼ばれる良性の変化です。
ひとつではなく複数の乳腺が同時にふくらみ、皮膚が張って赤くなったり、後ろあしがむくんだりすることがあります。見た目には乳腺炎とよく似ています。避妊手術によって落ち着くことが多い変化です。頻度は下がりますが、女性ホルモンに似たお薬を使っている猫や、雄猫で起こったという報告もあります。
乳腺の炎症
授乳中の母猫では、乳腺に炎症が起きて、赤み、熱っぽさ、痛みが出ることがあります。子猫が飲みたがらない、さわると嫌がるといった様子が手がかりになります。
乳腺のしこり
乳首のすぐ下や、乳腺の列に沿ってかたいものが触れるときは、乳腺のしこりを考えます。猫の乳腺にできる腫瘍は、8割から9割が悪性と報告されていて、犬より悪性の割合が高いことが知られています。
猫の乳腺は、胸からおなかにかけて左右に4対、合わせて8つ並んでいます。複数の乳腺に同時にしこりができることもめずらしくありません。中高齢の避妊していない雌猫に多い一方で、避妊済みの猫や雄猫にも起こることがあります。
色よりも、「触れるかどうか」を見てください
赤みという見た目だけでは、皮膚の問題なのか、その下の乳腺の問題なのかを分けられません。気にしていただきたいのは、皮膚の下に、以前はなかったかたいものが触れるかどうかです。
米粒や小豆ほどの大きさでも、前はなかったものであれば、一度診せていただきたいと思います。小さいうちに調べておくほど、選べる方法は多く残ります。
おうちでの確かめ方
猫が横になってくつろいでいるときに、なでるついでに確かめるのがいちばん続きます。無理に仰向けにしなくてかまいません。
- 指の腹を使い、皮膚の表面ではなく少し奥まで、なでるように触ります
- 乳腺は胸の付け根から下腹部まで、左右に列になって並んでいます。列に沿って上から下へたどります
- わきの下と内股の付け根も触ります。乳腺のリンパはこの近くのリンパ節へ流れていきます
- 乳首の色や形が左右で違わないか、液体が出ていないかを見ます
何か触れたときは、場所と日付をメモして、スマートフォンで写真を撮っておいてください。大きさは、指で押さえたところに硬貨や定規を並べて一緒に写すと比べやすくなります。次に見たときの変化がはっきりします。
月に一度を目安にしていただくと、変化に気づきやすくなります。
受診の目安
次のようなときは、早めに動物病院でご相談ください。
- 皮膚の下にかたいものが触れる
- 短期間で乳腺がふくらんできた
- 皮膚がやぶれて、出血したり液体が出たりしている
- さわると痛がる、その部分が熱をもっている
- 猫自身がその場所をなめ続けている
- 食欲が落ちている、呼吸が速い、元気がない
赤みだけで、かたいものが触れず、猫の元気や食欲が変わらない場合も、1週間ほど見て引かないようであれば受診をおすすめします。
動物病院で行うこと
まず、しこりの数と位置、大きさ、皮膚との関係を確認します。乳腺のどの列にあるかを記録しておくと、あとで比べられます。
しこりが触れる場合は、細い針を刺して細胞を採る細胞診検査を行います。体への負担が少ない検査です。ただし、細胞診検査だけで種類を確定できないことがあり、その場合は切除した組織を調べる病理組織検査で確定します。
腫瘍が疑われるときは、あわせて胸のレントゲン検査や腹部の超音波検査を行い、体の他の場所への広がりを確認します。必要に応じてCT検査を行うこともあります。
避妊手術をしていない猫で、ホルモンの影響による乳腺のふくらみが疑われる場合は、避妊手術やお薬による対応をご相談します。
そのあとのこと
検査で乳腺腫瘍と診断された場合の治療の進め方、手術の考え方、予防については、猫の乳腺腫瘍と猫の乳腺腫瘍:早期発見と治療法のページでくわしく解説しています。
乳首まわり以外の体のしこりについては、猫のしこりと猫のしこりは小さくても早めに診た方がいい理由をご覧ください。
避妊手術の時期については、避妊・去勢手術のページにまとめています。
南大沢どうぶつ病院では、日本獣医がん学会 獣医腫瘍科認定医Ⅰ種の院長が診断と治療にあたっています。「これは様子を見ていいものでしょうか」というご相談だけでも、遠慮なくお持ちください。
SUPERVISED BY / 監修
この記事は、南大沢どうぶつ病院 院長・獣医師 保坂 創史(日本獣医がん学会 獣医腫瘍科認定医Ⅰ種)が監修しています。
公開日:2026-09-06