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「咳」は風邪じゃない?高齢犬で注意したい「心臓弁膜症」。夜中の咳や「カッカッ」という音は要注意!

「最近、うちの子が『カッカッ』と喉に何かが詰まったような咳をする」 「興奮した時や、夜寝ている時に咳き込むことが増えた」

ワンちゃんがこんな咳をしていたら、それは「風邪」でも「年のせい」でもなく、心臓からのSOSかもしれません。

特に7歳を超えたシニア犬、そしてチワワ、プードル、シーズーなどの小型犬でこの症状が見られた場合、**「心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)」の一種である、「僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)」**という病気の疑いが強くなります。

今回は、命に関わる心臓病のサインと、早期発見のために当院ができる専門的な検査について、循環器科を担当する副院長の保坂記世(ほさか のりよ)の視点でお話しします。

チワワ

どんな咳が危ないの?(聞き分けるポイント)

ワンちゃんの咳にはいくつか種類がありますが、心臓病(特に初期〜中期)でよく見られるのは、以下のような咳です。

「カッカッ」「ガハッ」という乾いた音

喉に骨や毛玉が詰まった時のような音です。

「ガーガー」というガチョウのような鳴き声

気管が押し潰されている時の音です。

タイミング

運動した後、興奮した時、あるいは夜中や明け方に多く見られます。

「また咳してるな」と見過ごしている間に、心臓病は静かに、しかし確実に進行してしまいます。

なぜ心臓が悪いと咳が出るの?

「心臓なのに咳?」と不思議に思うかもしれません。

心臓の中にある「弁」がうまく閉じなくなると、血液が逆流して心臓がパンパンに大きくなってしまいます(心拡大)。大きくなった心臓が、すぐ上にある「気管」を下から圧迫してしまうため、喉が刺激されて咳が出るのです。

さらに病気が進行すると、血液中の水分が肺に漏れ出し、肺が水浸しになる**「肺水腫(はいすいしゅ)」**を引き起こします。こうなると呼吸ができなくなり、命を落とす危険性が非常に高くなります。

循環器認定医による「聴く」診察

当院の副院長(保坂記世)は、麻布大学の循環器科で研修を積み、日本獣医腎泌尿器学会認定医の資格も持つ、内科のスペシャリストです。

心臓病の診断において最も大切なのは、実は**「聴診(ちょうしん)」**です。 高度な医療機器も大切ですが、まずは獣医師が耳で心雑音(血液が逆流する音)を微細に聞き分け、雑音のレベル(重症度)を判断することから全ては始まります。

「健康診断で『心雑音がある』と言われたけれど、様子見でいいのかな?」と不安な方も、ぜひ一度ご相談ください。

専門的な検査で心臓の状態を「見える化」する

聴診で異常が見つかった場合、さらに詳しく検査を行います。当院では、以下の4つの検査を組み合わせて総合的に判断します。

レントゲン検査

心臓がどれくらい大きくなっているか、肺に水が溜まっていないかを確認します。

超音波検査(心エコー)

心臓の内部の動き、弁の状態、血液の逆流の程度をリアルタイムで確認します。お薬を始めるタイミングを決めるために不可欠な検査です。

心電図検査(ECG)

心臓のリズムを記録し、不整脈が出ていないかを確認します。

血液検査(NT-proBNP)

心臓にどれくらいの負担がかかっているかを「数値」で測る検査です。見た目ではわからない隠れた心臓病のリスクや、現在の重症度を客観的に評価できます。

「治らない」からこそ、「付き合い方」が大切

残念ながら、一度悪くなった心臓の弁を、お薬で完全に元通りにすることはできません。しかし、早期に発見し、心臓の負担を軽くするお薬を飲み始めることで、進行を遅らせることはできます。

「咳がひどくて眠れない」状態から、「お薬を飲んで、穏やかに散歩も楽しめる」状態へ。 QOL(生活の質)を維持し、愛犬と少しでも長く一緒に過ごすために、治療の選択肢はたくさんあります。

「最近、咳が増えたかも?」と思ったら、それは受診のタイミングです。 まずは聴診だけでも、お気軽にいらしてください。

南大沢どうぶつ病院 副院長・循環器担当:保坂 記世 院長:保坂 創史

(八王子市・多摩市・南大沢エリアの動物病院)

副院長・循環器担当:保坂 記世